タイの島とビーチ

タイ人のアイデンティティ

タイは東南アジアで唯一、外国の植民地になることをまぬがれた国である。そのため人々は自らのアイデンティティについて強い意識を持っている。宗教、王室、伝統、すべてが「タイ人である」という国民の意識を束ねる重要な役割を果たしている。実際、植民地支配を競い合うヨーロッパの諸勢力から自国を守る最大の力となったのが、タイ国民のこの自負だったのかもしれない。一方、タイ南部には、隣接するマレーシアのイスラム文化にむしろ深くつながる、もう一つの強力な文化的アイデンティティが存在する。南部のイスラム教徒たちはタイの社会に完全に溶け込むことなく、今も分離独立を求める声が根強い。

タイ社会の伝統的な価値観は近年、大きく変容を迫られている。ベトナム戦争時代、急速に膨張した性産業のせいで自尊心というタイ国民の感覚、とりわけタイ女性のそれが衰退してしまったことは確かだと思える。さらに近代化も、伝統的な価値観が失われてゆく要因として働き、おおらかでホスピタリティの精神に富んだ古いタイの良さは、自己中心的で資本主義的な思考に取って代わられようとしている。だが、こうした変容の中でもタイ社会においては依然、家族という単位がその核になっている。孫と祖父母を含む3世代同居の家庭が珍しくなく、お年寄りたちは欧米の多くの国で想像できないほど、家族の日常生活に大きくかかわって暮らしている。

タイの人々は政治的関心が強く、第一次世界大戦以降、19回ものクーデターがあった。その多くは左翼的な学生たちの運動が引き金となって起きたものだ。こうした闘争的な一面があるにしろ、多くの外国人が目にするのはただ彼らの親しみやすく温かな横顔だ。観光ポスターにある「微笑みの国タイランド」というキャッチフレーズ。その印象が裏切られることはまずない。おそらくそれは、世界の主要な宗教の中で最も寛容な宗教といわれる上座部仏教の教えによるものだろう。

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